山本浩司(オーディオ評論家)
2007年の正月明けに米国ラスヴェガスで行なわれたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ)の会場で、アメリカのスピーカーメーカーJoseph Audio (ジョセフオーディオ)の社長、Jeff Joseph (ジェフ・ジョセフ)氏にお会いした。
握手をして挨拶の後、出展ブースのあるヴェネチアン・ホテルのレストランへ。
ワインリストを見ながら「二十数年前、デートで奮発して飲んだのと同じボルドーの赤があるんだけど、どうですか」とジェフ氏。当方に異論のあるはずもなく、そのしっかりとしたフルボディの香気あふれるワインを堪能しながら、話を聞いた。
ジェフ氏は、1962年生まれの(当時)44歳。
生粋のニューヨークっ子だそうで、アメリカ Joseph Audio (ジョセフオーディオ)のオフィスもファクトリーも、もちろんこの大都会にあるという。
叔父さんが50~60年代にスピーカーメーカーをやっていたとのことで、その影響もあり、ずいぶん若いときからオーディオに興味を持っていたという。
「高校時代にはずいぶんスピーカーを自作しましたよ」 とジェフ氏。
10代後半からニューヨークのハーベイ・エレクトロニクスでハイファイ・ディーラーとして活躍。
ハーベイは、けっこう昔からオーディオを扱っていた老舗で、ジェフが入社したころは、マッキントッシュやマランツのアンプをかなり売っていたそうだ。
ソウル・マランツやゴードン・ガウ(マッキントッシュ)といったオーディオ界の伝説的人物とも交流があったという。
そんなわけで、彼は現在のハイエンド・オーディオ界の人間にしては珍しく、古いオーディオ機器に詳しく、また往年のヴィンテージオーディオに強いシンパシーを抱いているような口ぶりだった。
とくに管球アンプに対する造詣はそうとう深い。いちばん好きなアンプは、マッキントッシュMC275だとか。
20代後半には、すでにハーベイでオーディオ部門の販売マネージャーの職責を担っていたというが、その頃出会ったのが、マッキントッシュにいた俊英エンジニアのリチャード・モダフェリー氏。
彼が考案したインフィナイト・スロープをクロスオーバー・ネットワークに使ったスピーカーを聴かせてもらい、その音のよさに大いに驚いたという。
そろそろ販売マネージャーの仕事に飽きていたこともあり、モダフェリー氏に協力を要請して、1991年暮れにジェフはジョセフオーディオ社を設立する。
モダフェリー氏は、現在も技術顧問のような存在としてジョセフオーディオに関わっているそうだが、スピーカーの企画・基本設計は、ジェフ社長自身が行なっている模様。 模様というのは、ジェフはアメリカ人には珍しく(?)たいへんシャイな性格で、おれが全部やってるとは、けっして言わないタイプなのである。
昔、オーディオの敏腕セールスマンだったとは思えない、温厚な恥ずかしがり屋さんなのだ。
それからジェフは、そうとうなジャズ・マニア。 マイルス、コルトレーンといった50~60年代のジャズの巨人たちの作品を中心に1万枚を超えるアナログ・レコードのコレクションがあるという。 が、気の毒に、つい最近それらの貴重なコレクションが、水をかぶってしまうというトラブルに見舞われたらしい。
プロトタイプモデルは、トゥイーターのハイパスフィルターにも120dB/oct のインフィナイトスロープを使っていたそうだが、高域と低域の指向性のマッチングが悪く、製品モデルはメタルコーン・ウーファーのローパスフィルターのみにインフィナイトスロープを使っているそうだ。
トゥイーターのハイパスは18dB/octの一般的な3次のフィルターだとか。
短時間の会見だったが、オーディオや音楽の話で盛り上がり、とても楽しいときを過ごすことができた。
ぼくの大好きなスピーカーをつくるジェフ・ジョセフという男が、米国の輝かしいハイファイの歴史を俯瞰できる、本物のオーディオマンであることがわかったことが最大の収穫。次の新製品を大いに期待して待ちたい。