■M-Array
Hyphnの印象的な外観は各スピーカーユニットの構成によります。通常、音質は外観的なデザインは二の次とされています。実際、Hyphnの設計アイデアは、ユニットを最適な位置で(仮想)空間に浮かばせるところからスタートし、デザインチームはそれを中心にキャビネットの物理的な設計・形状を考え出しました。その “最適な位置” を実現するために奇抜なデザインを考えたわけではありません。M-Arrayの形状を採用した事でユニットの最適な位置を実現し、おのずとM-ArrayがHyphnにとって最も重要な部分のひとつとなりました。
M-Arrayはミッドレンジとツイーターを組み合わせたコンパクトなマルチドライバーで、バスドライバーが2つずつ収められた2本の柱のちょうど中央に配置されています。6つのミッドレンジドライバーはPlatinumシリーズのドライバーよりわずかに大きな合計表面積を有しており、大きく二つのメリットがあります。
①各ミッドレンジは非常に広い帯域幅を持ち、従来のツイーターの範囲の多くをカバーすることができます。これによりツイーターへのクロスオーバーが最もスムーズになり、ひずみが極めて低くなります。
②従来のDCドライバーはツイーターの導波管を形成するミッドレンジ・ダイアフラムの変位による相互変調歪みに悩まされていました。
これは、ミッドレンジが動作する最低周波数をコントロールすることでかなり低減できますが、完全に取り除くことはできません。Monitor Audio社のツイーター・ウェーブガイドは固定されており、ドライバーはツイーターの周囲にフラットなバッフルを形成するため、相互変調歪みが発生することはありません。
■MPD [Micro Pleated Diaphragm] III High Frequency Transducer
M-Arrayの心臓部、6基の51mmミッドレンジドライバーの中心に正確に配置されているのはMPD [Micro Pleated Diaphragm] 高周波トランスデューサーです。 従来のドーム型より遥かに広い表面積を持つ低質量プリーツ型振動板を使用したこのトランスデューサー(ハイル・ドライバー型)は、プリーツを素早く絞り込むことで超高速アコーディオンのように動作し、スムーズでワイド、かつ自然な高速レスポンスを実現します。その結果、歪みが無くより正確でリアルなサウンドを実現し、すべての帯域で極めてナチュラルかつフラットな特性を実現しています。また、振動板はドーム型ツイーターの約8倍の表面積を有しますが、これは、ドーム型ツイーターと同じ出力を得る時に比べて1/8の振動幅しか必要しないことを意味し、極めて高いパワーハンドリングと能率を獲得しています。
■RDT [Rigid Diaphragm Technology] III Cone
超軽量かつ高強度なこのドライバーは、完璧なピストン・モーションを実現します。振動板は積層構造の複合ダイアフラムで、コア(中心素材)はNomex(登録商標)のハニカムです。表面は Monitor AudioおなじみのC-CAM(セラミック・コーテッド・アルミニウム/マグネシウム合金)振動板。裏面はカーボンファイバー織布という素材の異なるサンドイッチ構造で構成されています。またコーン形状はセンターホールを排した精度が高い放射状を形成しています。この優れた素材と完璧なフォルムにより、ベンディングから完全に解放された完璧にアキュレートなピストン運動を、凄まじいスピードで実現します。MPD IIIは、300Hz以上の音域で8dB以上の歪みの低減を実現しています。
RDT IIIでは新たにリアレイヤー2層のカーボンファイバー織布を新採用。強度の向上により、パワーハンドリングリングが向上し、歪みは極限とも言えるレベルに低減されました。また、ドライバーの帯域を拡張するためにコーン・エッジと、ブレークアップを抑制するためラバー・エッジも最適化されています。
Hyphnに51mmのミッドレンジ・ドライバーを6基も搭載したのは、何よりもパフォーマンスが理由です。歪みを減少させ、ボーカルを効果的に投影するために、可能な限り多くの表面積を確保することが重要でした。また、ドライブユニットの放射面積が小さいほど、指向性が広くなり、室内での一体感が高まるためです。
■Powerful, Force-Cancelling Bass Drivers
Hyphnの圧倒的なスケールと威厳は、8基ものパワフルな203mmのバス・ドライバーによってもたらされます。各4基が正確に配置され、キャビネット内にしっかりと固定されています。4組のバス・ドライバーはそれぞれ互いに内側を向いて配置されています。それらは、厚さ25.5mmの金属棒と幅広のキャビネットを貫通するスルーボルトの固定具によってしかりと固定されています。
フォース・キャンセル・ドライバーのコンセプトは単純で、両方のバス・ドライバーのコーンに同じ力が加わえられるということは、同じ力が反対方向に加わることになります。2つのバス・ドライバーをペアで対向させると、一方の反力は他方の反力と同じになります。つまり、ドライバーからの振動力は、ドライバー自体の内部にも、キャビネットの中にも、ほとんど伝わらないのです。その結果、キャビネットはほとんど無振動となり、リスナーの耳には純粋・クリーンでディテールに富んだサウンドしか聞こえてこなくなります。
■Crossover
Hyphnは、低音のコントロール、レスポンス、ダイナミクスを強化し、さらに高音とアッパーミッドレンジを通して卓越したディテールを実現するように設計されています。クロスオーバーは、全周波数帯域にわたって正確でコントロールされたパフォーマンスを保証するために特別に設計されています。
Hyphnのすべてに言えることですが、振動や機械的共振を抑えるためにワイヤーを束ねるワニスでインダクターを焼き付けるところなど、細部にまで配慮が行き届いています。セラミックワイヤーワウンド抵抗は電力圧縮を低減し、また、Monitor Audio社が望んだ最大パワーハンドリング(800W)を達成するために、必要に応じて2倍、4倍にされています。
低音域、中音域、高音域の各セクションには、クロストークと磁界を最小限に抑える個別のPCBが使用されています。ボードは、隣接するインダクター間の相互作用を最小限に抑えるよう慎重に最適化され、キャビネット内のゴム製アイソレーション・フットに取り付けられているため、PCBやコンポーネントを伝わる振動を防ぎ、音質を向上させています。
■Cabinet
Hyphnの独創的なキャビネットは、熱成形されたミネラルとアクリルストーンで構成されています。その後、キャビネットは精密にフライス加工されます。その結果、完全な高剛性構造を実現し、ドライブユニットが理想的なプラットフォームで動作できるようになります。この天然不活性材は、Hyphnのエンクロージャーに最適です。強化リブとブレーシングを内蔵し、フォース・キャンセリング・バス・ドライバー周辺の内外肉厚を12mmから24mmとした結果、ほとんど振動のないキャビネットが完成しました。
建築用語で「ハイフン」は2つの別々な構造物をつなぐものの意味がありますが、HyphnにおいてはM-Arrayを含むブリッジが、バス・ドライバーを収めた2本のキャビネットを物理的につなぐ唯一のものとなっています。デザインチームはHyphnの左右に分かれる2つのキャビネットを底面部で固定せず、音質面向上の最大化はいうに及ばず、美しいデザイン設計を心掛けマスターピースに仕上げました。